海外学会レポート
XXIII CINP Congressに参加して
産業医科大学精神医学教室上田展久
2002年6月23日から6月27日にカナダのモントリオールで開催された「XXIII CINP Congress」に参加しました。
モントリオールはカナダの東側に位置する人口約170万人の都市です。モントリオールは「北米のパリ」と称されるそうですが、実際、町にはフランス語の表記が目立ち、また中にはフランス語しかしゃべれない人もいました。その反面、建物や道路はやたらと大きく、その辺はアメリカのような印象も受けました。町にはデパートやショッピングセンターが立ち並ぶダウンタウン、石造りの古めかしい建物が目立つ旧市街、ロワイヤル山を中心とした公園などがあり変化に富んでいました。学会会場となった国際会議場は旧市街のはずれにありましたので、移動の際にちょっとした散歩ができ、それも楽しみの一つでした。
今回、私はRelationship between SSRI induced nausea and plasma concentrations of 5-HIAAという演題を発表しました。この研究は「SSRIは消化管のserotonin機能を亢進させることにより嘔気を生じるのか」という点を検証する目的で行いました。paroxetineやfluvoxamineを服用するうつ病患者を対象とし、消化管のserotonin機能の指標として血中5-HIAA濃度(p5-HIAA)を測定しました。その結果、嘔気が生じた群は嘔気が生じなかった群と比較してp5-HIAAが有意に高くなっていました。すなわち、これらの2剤による嘔気は消化管のserotonin機能が亢進することにより生じている可能性が示唆されました。
また私が共同研究者に名前を連ねている発表のひとつに「Pretreatment plasma 3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol (MHPG) may predict response to milnacipran or paroxetine」というものがあります。これは昨年学会奨励賞を戴きました私の研究をさらに発展させた研究で、同じ教室の大学院生である新開浩二が発表しました。この研究では治療前の血中MHPG濃度(pMHPG)によりSSRIやSNRIの治療反応性が予測できるかを検証しました。うつ病患者を対象にSSRIであるparoxetineとSNRIであるmilnacipranを無作為に割り付け、臨床効果と投薬前後のpMHPGを測定しました。その結果paroxetine群では反応者のほうが非反応者に比べて治療前のpMHPGが有意に高くなっていました。また逆にmilnacipran群では反応者のほうが非反応者に比べて治療前のpMHPGが有意に低くなっていました。これらの結果から治療前のpMHPGが高いうつ病患者はparoxetineに反応しやすく、逆にpMHPGが低いうつ病患者はmilnacipranに反応しやすい可能性が示唆されました。
今回の学会はシンポジウムだけで56もあり非常に充実していました。その中で興味深かったものにImaging the serotonergic system in depressive disorders: A critical appraisal of findingsというシンポジウムがありました。このシンポジウムはうつ病とserotonin神経系の画像研究に関するもので5人のシンポジストが発表していました。1人目は米国のMann教授で、serotonin transporterのbinding potentialがうつ病患者では低下していると報告していました。イギリスのGrasby教授は未治療のうつ病患者では5-HT1A receptorの数が減少していることを報告し、その仮説としてHPA axisの過活動が5-HT1A receptorの数を減少させると述べていました。ベルギーのD’Haenen教授は5-HT2A receptorのbindingは未治療のうつ病患者と健常対象者で差がなかったと報告しました。一方、カナダのMeyer教授はうつ病の機能障害の程度は大脳皮質の5-HT2A receptorのbinding potentialと相関することを示しました。最後のシンポジストであったイギリスのCowen教授はtryptophan欠乏に関する研究をまとめ、tryptophanが欠乏するとpost-synapseの5-HT2Aおよび5-HT1A receptorのbindingが低下するとまとめました。いずれの報告も新しい知見であり、大変興味深いものでした。
それ以外にもうつ病に対する磁気刺激の効果に関する報告や抗うつ薬の効果予測に関する報告など、興味深い研究がありました。